テキサスの吟遊詩人 ~ アーネスト・タブ



「バーにいる男性の95%はジュークボックスでおらの曲を聴きたがるだよ。で、そいつはカノジョによ、「おれっちのほうがタブよりうまい!」と言うね。ホントにそうだとおらも思う。」(アーネスト・タブ)


なぜか日本の北方面に訛ってますが、それは創作でして、とにかくタブというユーモラスで気さくな人柄を物語るお話。

実際、晩年のタブを聴いて、「へたくそじゃねえかよ」という人はいるかもしれません。若いころはめちゃめちゃ上手いんですけどね。喉の手術をしてから声がどうかしちゃったらしい。でもこのなんだかとぼけた感じの低音がそのにこやかな笑顔、有名なほどの温厚な人柄と相まってすごくいい味なんですよ。だからあれほど人気があった。


さて、タブはカントリー&ウエスタンの世界では、30年代から有名人、40-60年代には帝王、70年代以降も大御所のバンドリーダー、大作曲家として君臨しつづけた偉人です。

どれが本質というわけではないけれど、たぶん、この人の名声はあらゆる分野に及んでいて、歌、ギター、作曲作詞、バンドリーダー、プロデューサー、ひとりの芸人、どの立場であれ、超一流でした。

なんとなく、わが国でいえば、笑点で半世紀近く活躍した桂歌丸大師匠のような、というイメージかなあ。痩せて姿勢も悪く、いかにも田舎の親父らしい風貌なのに、人を引き付けてやまない不思議さがあります。

ちなみに死因まで歌丸師匠と同じ(閉そく性肺疾患)。


タブのアイドルはジミー・ロジャースです。歌うブレーキマンといわれた30年代のカントリー音楽の始祖のひとり。

ロジャースは33年にわずか35歳で結核のため亡くなっていますが、大ファンだった少年時代のタブは未亡人と手紙のやりとりを続けて親しくなり、それがきっかけで未亡人の紹介で業界入りを果たすという、なんだか、朝の連続ドラマっぽい、偶然というか、人情噺というか、そんな趣きのお話ですね。





1914年、テキサスのクリスプという田舎町出身のタブは、農場育ちですが余暇のほとんどをギターと歌で過ごしていたそうです。当時は、テレビもゲームもないすからね!アマゾン通販で、ニンテンドーのゲーム新作ゲット!なんてありません。田舎に住んでりゃなにもなし、ですよねえ。そんなタブ少年は、ロジャース大好きが講じて、とうとうデビューするわけですが、とうとう、自作曲「ウォーキン・ザ・フロア・オーヴァー・ユー」がヒットし、スターダムに。日本でいえば笑点(またもや!)のごとく息の長い番組となった、「グランド・オール・オープリー」の常連となります。


このとき、タブはいつも凄腕のミュージシャンばかりのトラバドーズというバンドを率いていて、そのおかげもあり、人気を集めました。

初期はギターのジミー・ショート、トミー"バターボール"ペイジ、ビリー・バード、60年代はスティールギターのバディ・エモンズ、バディ・チャールトン、ギターのレオン・ローズなど。

今聴くと、60年代メンバーは現代にも十分通じる、非常に素晴らしいサウンドを聴かせるバンドで、大変に高度なテクニックを駆使していますが、なにせ、中心がおぼつかない感じでギターを弾きながら、ドヤ顔でうまいんだかヘタクソなんだかわからない低音ボーカルのタブですから、なんだか、みんな楽しそう。そんな和気あいあいなパーティ、飲み会、バーベキューみたいなノリが好評だったに違いありません。


Walkin' The Floor Over You (60's)





1965年にカントリー・ミュージック殿堂に殿堂入りし、1970年、ナッシュビル作曲家殿堂に殿堂入り。

1984年に亡くなりましたが、現在でも記念としてナッシュビルに存在する「アーネスト・タブ・レコード・ショップ」は健在だそうです。


なんといいますが、古いカントリーというのは、どうも昨今の日本では 人気がないらしいんですね。かつては、日本でもカントリーブームがありまして、一番有名なのは後に8時だよ!全員集合で有名になったドリフターズ。

プロアマチュア問わずたくさんのバンドがそれだけでサラリーマン以上というギャラをとっていた時代もあったとききます。

古いカントリーの主流はあまり器楽演奏が主でもなく、日本でいえば演歌みたいなものなので、歌詞とその背景となる文化がよくわからない日本では、どれも同じで単調に聴こえるのかもしれません。

しかし、タブのような歌丸さんのようなカリスマ性のある人を聴いてみると、新しい発見がある。それになにより、歳がいくと、こうした音楽のゆったりした日だまりのようなノリがとても心地よいんですよね。

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