ジミー・ボウモント&ザ・スカイライナーズ





ジミー・ボウモント&スカイライナーズは、たくさんあるドゥーワップグループのひとつ、というよりも、アメリカのポップ音楽史においても重要な意義を持つグループのひとといっていいでしょう。

リードシンガーでリーダーのジミー・ボウモントが目指したのは、フォア・フレシュメンのように洗練された白人グループでありながら、泥臭い初期の黒人ドゥーワップの支持層にも受けるような、ゴージャスで、しかもソウルフルな音楽でした。

そして、スカイライナーズは、実際にそれをやってのけた世界最初のグループになったのです。


1958年、ピッツバーグで結成されたスカイライナーズは、1945年のチャーリー・バーネットのジャズ曲、「スカイライナー」にちなんで、名づけられました。

大ヒットになった「シンス・アイ・ドント・ハヴ・ユー」は、メンバーの実際の失恋体験をもとにした歌詞にボーモントがメロディをつけた、という、いかにも若々しい(当時全員10代だった)作品だったにもかかわらず、今日に至るまで多くのアーティストにカバーされ続け、スタンダードナンバーとして定着している名曲です。




この曲の歴史的真価は、なんといっても、多くの簡素なドゥーワップグループのサウンドを含む、いわゆる50年代当時の「ロックレコード」のサウンドとはほと遠い、ストリングス入りのスイートなサウンドにありました。

しかし、ボーカルは、本物の黒人グループと比較して、まったく遜色のない、ソウルフルなもので、ボーモントは黒人音楽チャートでもトップを獲得。

最初に有名になった「ブルーアイド・ソウル」(白人ソウル)歌手だと言ってもいいでしょう。


また、この曲は、ポップチャートだけでなく、R&Bチャートでも大ヒットした、初めてのストリングス入りソウルサウンドで、少し後に大ヒットしたドリフターズの「ゼア・ゴーズ・マイ・ベイビー」、60年代の黒人音楽(フィル・スペクターサウンド)や、ロイ・オービソンの作り出したサウンドの先駆けになりました。

ロマンティックでゴージャスな、オーケストラ付きのロック、とでも言うべきサウンドの原点は、1958年のスカイライナーズ・サウンドにあるのです。


その「シンス・アイ・ドント・ハヴ・ユー」のもっとも感動的な部分は、紅一点メンバー、ジャネット・ヴォーゲルによる、ラストノートの高く舞い上がるファルセット(ハイ・C)で、このラストの大受けのおかげで、これほどのヒットになったといっていいかもしれません。(女性ボーカルでもここまで高い音はなかなか出せないのだそうです。)  

 

最初に全国に紹介されたのは、ディック・クラークの人気テレビ番組「アメリカン・バンドスタンド」でしたが、その後アラン・フリードが、ファッツ・ドミノやジャッキー・ウイルソンといった有名黒人アーティストたちとアポロシアターで公演させたために、多くの黒人音楽ファンも獲得。

1960年には、これまた今日ではスタンダード入りしている名作の「ディス・アイ・スウェア」を含む、アルバム「スカイライナーズ」をリリース。

「イッツ・ハップンド・トゥデイ」、「ロンリイ・ウエイ」などがシングルでもヒット。


しかし、その後、大手のコルピクス・レコードに移籍したりしたものの、ヒットには恵まれなくなり、60年代前半には早くも解散してしまいます。

60年代後半から始まったリチャード・ネイダーの50年代ロックリバイバルの波にのり、再結成。

しかし、リバイバルブームが終わる70年代後半に入ると、それぞれメンバーがショウ・ビジネスから引退。

さらに、シンス・アイ~の呼び物だったジャネット・ヴォーゲルが自殺。

次々と不幸に見舞われたスカイライナーズですが、ジミー・ボウモントの不屈の活躍により、メンバーは一新されたものの、現在でも現役で活躍しています。


70年代に有名になった、我が国でもおなじみのコーラス・グループ、マンハッタン・トランスファーが最も敬愛するグループは、ジミー・ボウモント&ザ・スカイライナーズだと言ったそうですが、そのスカイライナーズを今日でも、生で鑑賞することができる、というのは素晴らしいことです。

(この記事は、vivid sound のCD 「シンス・アイ・ドント・ハブ・ユー」 のライナーなっています。)


追記(2021年11月)

ジミー・ボウモントを含むオリジナルメンバーが3人が死去

Joe Verscharen (born August 30, 1940 in Pittsburgh) died of cancer on November 2, 2007, aged 67
 • Wally Lester (born Walter Paul Lester, Jr. on October 5, 1941 in Pittsburgh) died of pancreatic cancer in Southport, North Carolina on April 21, 2015, aged 73
 • Jimmy Beaumont (born James Beaumont on October 21, 1940 in Pittsburgh) died on October 7, 2017, aged 76.


コメント

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  2. 昔、ピッツバーグに住んでいたので、このグループ知ってます。 確か、映画が作られていて、グループの始まりから、ジャネットが亡くなるところまでぐらいが描写されていたような気がする。すっかり内容は忘れてしまっているのが、俺らしい。
    インターネットで探してみても見当たらないので、地方テレビのドラマだったのかもしれないな。

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  3. Youtubeで見つかった。これが、彼らを題材にした映画のトレーラーだ。
    <Filming of 'Since I Don't Have You'>

    https://youtu.be/mL-COVQLdbY

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  4. ありがとう。てつの地元だもんな。本編もみてみたい。

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  5. ソプラノのジャネット・ボーゲル(大ヒット2曲の作者でもある)についての記事をアップするのでどうぞ。

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