思い出のレインソングスとレッキング・クルー



 なんといっても、わたしが好きなのは、雨の日。

春の荒天が近づいていますね。あのナマヌルーい突風と雨の匂いと空気感が大好き。季節が巡ってくるたびにそう思います。

なんでだろう、と考えてみると、なにかと思い出が多いんですよね。みなさんもそうじゃないかしら。春は別れと出会いの季節でもありますから。

3月の卒業式、4月の入学式から始まって、社会人としてデビューするのも、退職するのもたいていは春。だから、苦い思い出も楽しい思い出も哀しい思い出も春に多いんじゃないかなあ。

そんなわけで、好きな曲も、雨の歌が多いんですよね。

パッと思いつくのは、「雨に微笑みを」(ニール・セダカ)。これが一番かな。でも、最初の強烈な甘い記憶は、ロネッツのLPから「ウォーキン・イン・ザ・レイン」。

それから、高校のころにラジオのエアチェックをして毎日聴いていた「悲しき雨音」(カスケーズ)、「雨にぬれても」(BJトーマス)、「雨の日と月曜日は」(カーペンターズ)と60年代後半から70年代の大ヒットが続きます。


嵐の効果音で始まるのが有名な、スペクターのウォール・オブ・サウンドものの白眉、「ウォーキング・イン・ザ・レイン」。

1964年の大ヒットなんですけども、わたしが3歳のとき、東京オリンピックの年でしたね。中学生のときにLPを買ったのですが、A面の1曲目がこれで、仲の良かった従兄と一緒によく聴いたものです。曲を聴くたびにはるか昔の思い出がつい最近のようによみがえるんですね。人の脳って不思議。


Walking In The Rain



さて、続いて、悲しき雨音(Rythem Of The Rain)は、63年の傑作。

カスケーズとなっているが、実際の録音は、レッキング・クルー。(ドラムス=ハル・ブレイン、ベース=キャロル・ケイ、ギター=グレン・キャンベル)。なにしろ、これも、冒頭が嵐の効果音。なんだろう、スペクターはこれをパクったのかしら。

中学くらいのころ好きな曲でしたが、今調べてみると、これもレッキング・クルーの仕業。すごいスタジオグループだなあ。

当時、わたしが好きだった曲は全部彼らが楽器弾いてるんですよね。これって、すごくね?


Rythem Of The Rain



「雨に濡れても」は西部劇好きにはおなじみの曲。わたしが子供のころ、従弟とよく歌った懐かしい曲でもあります。子供のころ初めて覚えた弦楽器がウクレレだったからでしょうか。そういえば、このバックの有名なウクレレは誰?と調べてみたら、ビル・ピットマン。おまけにブレーク部分のトランぺットはチャーリー・フィンドレーで、これまた、レッキング・クルーの仕事でありました。私がすきだったのは、オリジナルよりペリー・コモ盤でしたけどね。


RAINDROPS KEEP FALLIN ON MY HEAD





70年代はカーペンターズだった。LPは現在でもすべて持っています。趣味が違うかみさんが持参したLPはカーペンターズはまるかぶりで、すべて2枚づつあるんですよ。

さて、雨好き男としては、やはりなんといっても、この曲。最初に聴いたカーペンターズもこれだったような気がする。

RAINY DAYS AND MONDAYS



今聴いても洗練度が極度に高く、本当に見事です。まあ、言うまでもなく、というか、やはり、というか、バリバリのレッキング・クルー仕事のひとつだったのが今ではわかっています。(ドラムス=ハル・ブレイン、ベース=ジョー・オズボーン、ハーモニカ=トニー・モーガン)

ロネッツ以降、カーペンターズまで、私たち世代は史上最高のポップスタジオ録音をオンタイムで聴いてきたんだなあ、と実感。


さて、番外編として、レインソングではないものの、個人的に歌詞に出てくる雨が痛切に心に残る曲として、ロイ・オービソンのTEARS を挙げておきます。

大御所オービソンの中でも全く忘れ去られて久しい不振時代のアルバム「LAMINAR FLOW」。私はオンタイムで買ったのですが、すぐにカットアウト版になり、驚いた記憶があります。

内容は、いつもの大げさなオービソン音楽とは異なり、当時のAOR路線を狙った渋いもので、わたしはすごく好きだったんですが、特に、評論筋とかもともとのオービソンファンの評価が低くて損をしたんだと思います。しかし、この「TEARS」は、当時のオービソンのオリジナルの中でも出色の出来栄え。

歌詞の最後に出てくる「BUT SHE HAD FADED INTO THE RAIN」を聴くたびに、大学時代の終わり、雨の中に消えていった同級の彼女を思い出し、今でも胸が熱くなります。この曲を聴くと春の雨の日の空気まで思い出せる。この曲はわたしの記憶の宮殿の鍵なんですよね。


TEARS





そして、わたしのレインソングナンバー1は今も昔も、ニール・セダカの「雨に微笑みを」。1974年前後にオンタイムで聴いて、虜になりました。一度聴いたら決して忘れない。絶対に他の曲とごっちゃにならない。名曲の鉄則をすべてクリアしている名作。

セダカ本人の最近のアップ動画で、この曲を作ったネタあかしをしていて面白かったです。とにかく、コード進行の組み立てから入るらしい。なんといっても、この人は20世紀屈指の大作曲家なんですから。


LAUGHTER IN THE RAIN




そして、ここでもやはりすごいのがレッキング・クルーの活躍。暗躍、というべきか。

例えば、グレン・キャンベルは、全米が誇るギタリストのひとりなのに、クレジットにあっても存在感がほとんどない。ギターのアル・ケイシーは「スリーコードのアコギを1回弾いただけで莫大なギャラをもらったこともある」といいます。

ハル・ブレインにしてもキャロル・ケイにしても、個々人で目立つようなことは例外はあれど、あまりないけど、全体の音は洗練の極みなんですね。

ケイが「わたしたち、なのよ。わたし、じゃないの。これはそういうビジネスだからね。」とインタビューで言っていたのが印象深いです。彼らのように、突出してみせることもどこにいるのかわからないほどひとつに溶けあってしまうこともできるのが一流のミュージシャンということなんだろうと思います。



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