マック・レベナック、またはドクター・ジョンの死



ドクター・ジョンが逝去。享年77歳(NMEジャパンより引用)


ドクター・ジョンが亡くなった。享年77歳だった。(2019年6月6日)

遺族からの声明によれば、ドクター・ジョンは現地時間6月6日に心臓発作で亡くなったという。遺族は次のように述べている。「彼独自の音楽的な道のりを共有してくれたすべての人に感謝しますし、現時点はプライバシーに御配慮いただければと思います。葬儀関連に関しましては追って発表いたします」

1941年11月20日にルイジアナ州ニューオーリンズにマルコム・ジョン・レベナックとして生まれたドクター・ジョンは父親のレコード・ショップでジャズのアーティストに感化され、正式な音楽的教育を受けることはなかったものの、父親の紹介で地元の音楽シーンのレコーディング・スタジオに出入りしていたという。

1960年に薬指を銃で撃たれ、ギタリストとしての道を断念して、プロフェッサー・ロングヘアーの影響でピアノを演奏するようになり、売春の斡旋と麻薬の販売で2年の刑を受けた後、ロサンゼルスに移住している。

ドクター・ジョンはレッキング・クルーの一員としてザ・ローリング・ストーンズやヴァン・モリソン、ソニー&シェール、フランク・ザッパらとレコーディングを行い、マーティン・スコセッシ監督による『ラスト・ワルツ』にも参加している。

生涯を通して20枚以上のアルバムをリリースしており、グラミー賞を6つ受賞しているほか、2011年にロックの殿堂入りを果たしている。





そう、あのドクター・ジョンがとうとう亡くなった。元マック・レベナック。50年代はマック・レベナックだった。59年のシングル「Storm Warning」を聴くと、まるで強烈なファンク、というか、ボ・ディドリーであり、いつもの呑気なピアノブギが聴こえてこない。それにしても、時代のかなり先を行っているサウンドで驚かされる。66年ころの作品に聴こえるのだ。

ドクターはここではギタリストである。死亡記事にあるとおり、ギターを断念して途中でピアノに変更したのだ。




マック・レベナックの50年代の音楽仲間はロニー・バロンとボビー・チャールズで、チャールズは「シー・ユー・レイター・アリゲイター」の作者として生涯印税で食べていけた人だ。3人とも、50年代白人アーティストとしては破格の出来栄えの曲をたくさん残しており、リトル・リチャード、ファッツ・ドミノといった人たちと互角で勝負していた。


マック・レベナックがドクター・ジョンになったのは、1966年のことで、アルバム「GURI GURI」が出たときだ。おどろどろしい古いニューオルリンズのブードゥー教の司祭にちなんでつけたステージネームだった。

続いて72年に出した「ガンボ」でついにドクターは本当に古いニューオルリンズR&Bの古典を軒並み復活させ、この手の音楽の新しい世代の王様になった。

「ガンボ」冒頭の「IKO IKO」はその後、この手のバンドでは必ずといっていいほど取り上げられるスタンダードになった。


IKO IKO



その後、途中、ローリングストーンズの仲間になったり、ラストワルツでザ・バンドと肩を並べたり、いろいろなことをしているが、ドクターはどんどん時代を逆行していき、ついには、ピアノのみで20年代のジャズ、ブルース、ブギウギを弾き語りする古い、そして、古典的なアーティストとして他に類をみない活躍をしていく。なお、わたしはピアノ弾き語りで来日したドクターのステージを2回、東京の九段会館で観ている。九段会館は東日本大震災で天井が崩落し、今はない。隔世の感がある。


実は、つい、直前の5月30日にレオン・レッドボーンが亡くなったばかりだ。レオンも来日公演は、ドクターと同じく九段会館だった。

ふたりは友人同士である。レオンのアルバム収録曲「FROSTY SNOWMAN」(クリスマスクラシック)では、共演もしている。


FROSTY SNOWMAN 



なんともクラシックでハートウォーミングな演奏。レオンが中心なので狙っているのがまるわかりだが、ドクターも確かにこういう古き良きのどかなニューオルリンズの風を感じさせる人であった。

二人とも、20世紀初頭のアメリカポップ音楽の大元である南部黒人音楽、ブルース、ラグ、ブギウギをとことん追求、復活させ、独演で世界に紹介し続けた。そういう意味でもこのふたりはよく似ている。

相次いで亡くなったのけれど。ふたりとも、100年前のアメリカ南部からタイムスリップしてきたような人物だった。きっと彼らは100年前に帰ったのだろう。

今頃は1920年ころのミシシッピリバーに浮かぶ蒸気船で、カードやビリヤードをしているに違いない。





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