銀座イエナのデヴィッド・オクストビー
10代のころ、銀座にあったイエナという洋書店によく行きました。
その気になれば歩いていける距離だったのです。
週末、ぶらぶらと散歩しながら、高校生だったわたくし、銀座まで行くのですが、レコード屋と洋書店に寄るのがお決まりのコース。
なにせ貧乏な高校生だったので、高価な服などにさく予算はありません。
せいぜい贅沢して、レコード、ロック音楽を扱った図版入りの洋書といったところ。特に大部のロック辞典系は、高価でなかなか手が出ません。
文字ばかりの本は、通って、興味のあるところをよく暗記していました。貧乏くさいですが、仕方ない。貧乏なんだから。
そんな意識はしなくても、好きこそもののなんとやら、努力をしたおかげで、多少は英語にも強くなり、あとで受験戦争といわれた入試バトルにも全戦全勝できました。
それは、銀座イエナと貧乏生活からでた知恵のおかげ。そして、大好きだった50年代や60年代のロックンロールのおかげでもありました。
わたしが高校から大学にかけて、70年代後半から80年代前半当時は、50年代アメリカ文化全般にかかる書籍もたくさん出ていて、日本語訳のあるものも数はすくないものの結構ありました。
特に有名だったのは、惜しくも亡くなられた金沢大学の三井徹先生が訳したもの。グリル・マーカスの名著、「ミステリー・トレイン」もそうですし、デイブ・マーシュの「ロック・エンサイクロペディア」もサンリオ出版から出てました。
こんな本を出すなんてすごいな、とサンリオ出版に就職活動をしたこともありました。
三井先生とはお会いできずじまいでしたが、インターネットのない時代、郵送、お手紙でやりとりをして、日本では手に入らない文献を見せていただいたりしました。
ビル・ヘイリーの伝記は、大量のページ数なのに、全部、ご自身でコピーして送ってくださって、感謝感激したのを覚えております。
さて、そんなロックンロール関係の洋書のなかで、とりわけ好きで今でも持っているのが、画集。
特に、2冊の50年代、60年代ロックを中心としたもので、それぞれふたりのアーティストによるものです。
ひとつは、ベルギーの画家、ギイ・ピラートによる「ロック・ドリームス」。
ポップアート系のコラージュのような技法の目立つ、素晴らしい絵画作品を集めています。
それぞれのアーティストのイメージ、有名な曲が表現したある意味ファンタジックな夢を、2次元の絵画につなぎとめたような作品軍で、曲やアーティストを知っていれば知っているほど楽しめます。
例えば、ボ・ディドリー。
ジャングルリズムで有名な歌手、ギタリストですが、むしろ、当時好んで着ていた彼のファッションイメージに着目。もともとは、アルバム「ガンスリンガー」のジャケット写真からきているのですが、それを膨らませた。
ボ・ディドリーのガンマンが瞬殺で敵を倒す。床にはトレードマークのひとつ、グレッチのジュピターサンダーバード。
ギターから拳銃に持ち替えて倒したの図、でしょうか。
チープな西部劇そのままの舞台にボ先生が登場したような、愉快で、かつ、あの強烈なギターリズムが聴こえてきそうな作品です。
こちらはうってかわってメランコリックな青春映画の一コマといった感じのエディ・コクラン。タイトルは「サマータイム・ブルース」。孤独なコクランが街行く女性を目で追う、けだるいムードの作品。
曲の内容を、ストレートでなく、こんな雰囲気に変えて解釈した、素晴らしい絵です。
お次は、ブラックレザーレベルこと、ジーン・ヴィンセント。ここには、ヴィンセント自身が登場しません。ナイフを持っているのは、どこかの不良でしょう。これもまた、ヴィンセントが作り上げた空想の世界を絵に落とし込んだような面白い作品。
そして、真打、エルビス・プレスリーは、活躍した時代ごとに数枚あるのですが、こちらは、最初期、デビュー前にメンフィスのビール・ストリートをうろつくエルビスでしょうか。
黒人居住地区のブルース通りとして知られたビール・ストリートの猥雑な雰囲気の中、たたずむ、孤独な白人青年。初期のエルビス伝説を2次元に閉じ込めたような作品。
さらに、ロック絵画の極めつけはこれ。
イギリスの画家、デヴィッド・オクストビーの「オクストビー・ロッカーズ」。
オクストビーは、1938年生まれ。現在88歳ですが健在。
特殊な肺病で子供時代を過ごしたせいで、絵ばかり描いていたといいます。
アートスクールに14年も通い、プロに。その傍ら、スキッフル(イギリスのロカビリーの前身)でベースを弾いたり、バイカーでもあり、イギリス流のテディボーイでありました。
今年、60周年の回顧展が開かれているイギリスのポップアート界の重鎮、デビッド・ホックニーとともにスタートを切った人ですが、ロックアーティストを題材にした、ポップアートを手掛けるようになり、のちにさまざまなアルバムジャケットもデザインしています。
また、多くの、本物のロックアーティスト、ミュージシャンからも尊敬され、音楽家ではない、ロック界の一員となっています。
オクストビーが有名になった70年代、リアルタイムで有名だったブルース・スプリングスティーン。アメリカそのものを深い歌に落とし込んだスプリングスティーンを表現した傑作。
本当にたくさんの、さまざまなスタイルのロックアーティストポートレイトがあり、どれも素晴らしいのですが、ここはやはり、エルビス。
70年代のエルビスを斬新な赤でとらえた作品。
さらに、50年代のエルビス。ステージングの一コマを鋭く切り取った、これは、銅版画作品です。
さて、いかがだったでしょうか。
アートの世界にロック音楽の世界を持ち込んで、見事な作品を残したふたりのアーティストのお話でした。








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