世界最初のロックドラマー ディック・リチャーズ

 




2020年7月12日、ビル・ヘイリーコメッツの最後の生き残りメンバーのひとり、ディック・リチャーズがその生涯を閉じました。享年95歳。

本名をリチャード・マーレイ・ボセリといいますが、もうひとつの芸名はディック・ボセリでした。こちらの芸名は俳優としてのもので、たくさんの映画、テレビドラマ、劇場に出演していました。

1924年デラウェア生まれ。コメッツ入りは1951年で、最初のメンバーのひとりでした。(51年なので、具体的にはコメッツではなくサドルメン)。55年にジョディマーズ結成の伴いコメッツを抜け、58年までジョディマーズのドラムス兼ボーリストとして活躍。その後音楽業界を抜けて、高校の体育教師を務めました。70年代には教師業の傍ら、映画やテレビなどの俳優として活動。87年に再結成されたオリジナルコメッツのメンバーとしてつい昨年まで現役のドラマーだったのですが、今年春くらいに体調を崩し、亡くなったということのようです。

彼が有名になるのは、ジョディマーズからです。




サドルメン~コメッツのメンバー中、マーシャル・ライトル、ジョーイ・アンブローズ、ディックの3人は、雇われ組で、それぞれ、ダブル・ベイス、サックス、ドラムズを担当していました。 

ベイスは、マーシャルの前がアル・レクスでしたが、この人は後で出戻りすることになります。サックスのジョーイは、当時まだ10代の若いミュージシャンで、R&B界の大物ビッグ・ジョウ・ターナーから「最も白い黒人サックス奏者」(実際は白人)と賛辞を送られていた若手のホープ。マーシャルは、まだ10代のセミプロ・ギタリストでしたが、ヘイリーからスラップ・ベイスのテクニックを教わったそうです。ドラムズのディックはコメッツ時代はライブ専用のメンバーで、なぜか主要なスタジオ録音はすべて、プロのセッションマン、ビリー・ゲサックの手になります。当時の録音技術では、ドラムズは音量の関係で録るのが極めて難しかったので、その専門家を必要としたのかもしれません。


彼らは、「ロック・アラウンド・ザ・クロック」のセッション(LPにまとめられた歴史的名盤)まで参加し、その直後にコメッツを辞めて自身のグループ「ジョディマーズ」を結成しました。まあ、コメッツそっくりのバンドですが。バンド名は、それぞれの名前の最初の部分をとって名付けたそうで、意味はありません。しかしながら、たいしたヒットは出ないまま、本家コメッツの人気の落ち目と轍を一にして、ラスベガスの余興バンドになってしまい、とうとうゴリラの着ぐるみを着せられるところまでいって、解散を決断したそうです。その後、それぞれ、ショウビズの世界から他の仕事へ移って行きました。


Let's All Rock Together (The Jodimars featuirng Dick Richards on vocal)



マーシャルはカリフォルニアで不動産業を始め大成功を収めます。業界の講師、コンサルなども歴任した後、裕福な家庭人として、フロリダで引退生活を送っていました。ジョーイは、ラスベガスに留まり、サックス奏者のプロとして機会あるごとにステージに出ていましたが、ホテルのカジノディーラーのボスになりました。ディックは最初に書いた通り、高校の体育教師の仕事を続けながら、ハリウッドのバイプレイヤーとして様々な映画の悪役・脇役を務めます。

そして、マーシャルの発案でジョディマーズは80年代半ばに復活。

ジョディマーズの3人は、さらに当時の他のメンバーで元気な人達に声をかけた。その結果、フラニー・ビーチャーとジョニー・グランデの2人が合流することになりました。さらに、ビルヘイリーとそっくりな声の歌手、ジャコ・ブディン(イギリス人)を加え、「ビルヘイリーズ・オリジナル・コメッツ」が始まりました。 

大変な人気が出て、世界ツアーを敢行するなど、とても70-80代とは思えないスーパーじいさんぶりでしたが、2006年にジョニー・グランデが他界、最年長であるフラニーも2014年に亡くなり、残ったのはジョーイとディックだけでしたが、とうとうディックが他界してジョーイが初期コメッツの唯一の生き残りとなってしまいました。

今ではコメッツのコピーバンドが世界各国にあり、かなり本格的な演奏も観ることもできます。しかし、歴史的重要性、そして何よりサウンドの「らしさ」が本物でないと出ないノリや味があるのではないかと思います。

ひとつの時代が完全に終わった、という感慨を持ちます。R.I.P ディック・リチャーズ。

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